消えがてのうた

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zoom RSS アダム / ゲントの祭壇画 :ファン・エイク兄弟

<<   作成日時 : 2006/11/17 01:09   >>

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 ゲントは、ブルッセル、アントワープに次ぐ、ベルギー第三の都市。
「花の街」とも呼ばれる古い都です。

この街で一番有名なもの。
それは多分、兄ヒューベルトの死後、弟のヤンが制作を引き継ぎで完成させ、15世紀ネーデルランド絵画の代表する作品となった『ゲントの祭壇画』ではないでしょうか。

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           ファン・エイク兄弟 『ゲントの祭壇画』シント・バーフ大聖堂

☆上段パネル:左から 「アダム」「合唱者たち」
               「御座の聖母マリア」「御座のキリスト」「御座の洗礼者ヨハネ」
               「奏楽者たち」「エヴァ」
☆下段パネル:左から 「正しき裁き人」「キリストの騎士」「神の子羊」「聖隠修士」「聖巡礼者」

 この瞠目すべき傑作の中でも、わたしが惹かれるのは左上段に描かれたアダム、そしてそれと対応するべく同じく右上段に描かれたエヴァの絵です。

 アダムは旧約聖書の中で、最初に創造された人間。
エヴァはその妻です。
神に似せて形作られたアダムは「完全な人間」でした。
そのアダムが、邪悪な蛇に惑わされたエヴァの勧めに従って、神から禁じられていた「善悪を知る木」からその実を採って食べたことにより、「罪」とともに生きる宿命を負わされることになったというのが創世記の始まりの物語です。

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この祭壇画のアダムとエヴァはまさしく罪の象徴として、この祭壇画の両翼に描かれることとなりました。
 アダムの表情は深い哀しみと寂寥に満ちています。
その視線が見つめているのは何でしょう。
左手はまるで、傷む胸を庇うかのように力なく右の胸に伸ばされています。

 対するエヴァはと見れば、こころなしきつい眼差しで中空をみつめています。
アダムの視線が下に落ちているのに対し、彼女の目はしっかりと水平方向に向けられています。
緩やかな曲線を描く下腹部で、彼女が懐妊していることが明らかです。
楽園を追われ、罪の代価として与えられた「産みの苦しみ」の裡に彼女が生んだふたりの子ども、カインとアベル。
 神に愛されたアベルを妬んだカインは、人類最初の殺人を犯すこととなりました。

アダムの悲しみは、父である神の信頼を裏切った深い悲しみであると同時に、子を喪った父親としての哀しみでもあり、弟殺しのカインの父であるという苦しみでもあるのでしょう。
 逃れることの出来ない慟哭の中で、彼は声を失い表情さえもが虚ろに立ち尽くしています。
彼の頭上に、レリーフのように描かれているのはカインとアベル。
いままさに弟を打ち殺そうとしているカイン。
エヴァの頭上では、むなしく身を守ろうと試みるアベルの姿が見てとれます。

ファン・エイクの執拗なまでの写実的な筆致は、外面だけでなくその心の奥深くに隠されたものまでを描き出します。
 上段中央および下段の華麗な絵に比べ、このアダムとエヴァは、心の闇を思わせる、冷たい暗闇を背景に佇んでいるかのようです。

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消えがてのうた
2006/11/17 01:50
エヴァ / ゲントの祭壇画 :ファン・エイク兄弟
 前回アップしたアダム。 彼について書いたのだからエヴァのことも書かないわけにはいかないかもしれない、この人類最初の夫婦の物語を、片一方だけ書いて終わりにしては片手落ちというものかもしれない。  ということで、今日はエヴァについて。 ...続きを見る
消えがてのうた
2006/11/19 21:59

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コメント(10件)

内 容 ニックネーム/日時
アダムとイヴ・・・・・
思春期の頃、好きだったガム・・・・・
大学生の頃、好きだった陶器・・・・・
いずれも、背伸びしていました。

さて、アダムとエヴァの子供に、こんな悲劇があったとは
知るところではありあませんでした。
右上の絵? 彫刻? 残酷ですね。
カインだって、神に愛されていたろうに・・・・・。

絵の真ん中は、王となったイエス・キリストですか。
Stanesby
2006/11/17 02:22
おはようございます。

「アダムとイヴ」ありました、ありました。
確か赤とピンクの包装?(これについては自信なし)
いい香りがするガムでした。
それまでのフルーツはミントの香りとは違う、お洒落な香りでした。
 陶器の「アダム&イヴ」
これまた、従来にないシンプルでモダンなデザインでしたね。
友達のプレゼント用に買うことはあっても、自分で買うには少々お高く,諦めたコーヒーカップもありましたっけ。

カインとアベルとの軋轢。
もし、お手元に聖書があればお読みになってください。
旧約聖書の冒頭、僅か2,3ページの物語。
簡潔にして全てが記されています。

>カインだって、神に愛されていたろうに・・・・・。
ヘルマン・ヘッセはこのカインの物語に触発されたのでしょうか、「カインのしるし」を持った少年をテーマにした小説『デミアン』を書きました。
aosta
2006/11/17 06:34
>絵の真ん中は、王となったイエス・キリストですか。
はい。そうなんです。
そうなんですが、・・・
従来のキリストとちょっとイメージが違いますね(笑)
東方教会の祭司のようにも見えます。
衣装のせいでしょうか?
aosta
2006/11/17 06:35
この絵、ゲントで見ましたが、「神の子羊」にばかり目がいっていました。
aostaさんの書いていらっしゃることで見ているようで見ていないものだとつくづく思いました。
宗教画を鑑賞するには旧約聖書も読まないとで、娘の高校時代クリスチャンの女学校でしたから、親の聖書研究会で読んだことがあります。
この絵のアダムとイヴの表情、確かに苦しみがよく表わされているのですね。ありがとうございました。
tona
URL
2006/11/17 16:41
◇tonaさま。

こんばんは。
そうでしたね。
tonaさん、ベルギーに行かれたことがおありでしたね。
ゲントにも足を伸ばしていらしたのですね。
 この画像ではわかりませんが、実物は思いのほか小さいものだったという話をききました。
緻密な構成、どんなところでも手を抜かない写実的な描写、本物を見たらその感動はいかにおおきなものかと思います。
aosta
2006/11/18 00:37
この絵の、Agnus Deiを見ますと、昔はパレスチナ辺りも緑豊かな土地であったんだなぁと思います。もっともファン・アイクの時代には既に想像の世界であったのでしょうけれど・・・・・。
Stanesby
2006/11/18 01:41
◇Stanesbyさま
 おはようございます。

パレスチナ、この聖書の時代には使われなかった呼び方です。
 聖書の中では「カナン」と呼ばれ、古来ユダヤ人が住みついてきた土地でもあります。”乳と蜜の流れる約束の地”といわれたその土地は確かに緑濃い豊かな地域であったのでしょうね。
紀元前10世紀ころイスラエル王国となり、その中心としてのエルサレムが建設されたのはこの時期になります。
 ある時代、この豊かな地に未曾有の飢饉が襲い、イスラエルの人々は食べ物を求めて遠くエジプトにまで逃れ、かの地での生活を余儀なくされました。
旧約聖書の『出エジプト記』で、モーセが何十万人にも膨れ上がったこの民を引き連れて目指した故国がこのカナンでした。
イスラエルの民(ユダヤ人)が父祖の地にたどり着いたあと、歴史の荒波の中でこの国は滅び、祖国を失ったユダヤの人々は世界へと散って行かざるを得ませんでした。
aosta
2006/11/18 10:23
第二次世界大戦後、イスラエルという国が突然この地に建国されたとき、神との約束が実現されたことを信じて、世界の各地に散らばっていたユダヤ人たちが「故国」に戻ってきたのです。
そしてこのことは同時に、何世紀にも渡ってこの地に住み続けていたパレスチナの人々を追い出すこととなってしまいました・・・

 この旧約聖書の時代、神がイスラエルの民に与えられたといわれるカナン、現在のパレスチナを巡って血で血を洗う争いが今日に至るまで続いています・・・

イスラエル建国には当時の大国のさまざまな思惑が働いていたことを考えると、これは人為的に作られた悲劇としか言いようがありませんね。
「パレスチナ問題」根が深いです。
と、これはまた言わずもがなのことを書いてしまいました。
これでは「釈迦に説法」ですね。

Agnus Dei「神の子羊」のコメントに対するお返事としては??でした(笑)
失礼いたしました。
aosta
2006/11/18 10:26
トラックバックありがとうございました!!
Fu Shusei
2007/11/23 19:17
どういたしまして。
こちらこそ、ありがとうございました!!
aosta
2007/11/24 08:19

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