消えがてのうた

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zoom RSS 薔薇の名前

<<   作成日時 : 2008/05/13 00:01   >>

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「薔薇の名前」と聞いてウンベルト・エーコを連想された方には申し訳ありませんが、これから書くのはそのタイトルどおり名前の由来、つまり薔薇の名前についての物語です。

私の庭で春真っ先に咲き始める薔薇の花は、早咲きのクライミング・ローズ、スパニッシュ・ビューティー。
緩やかに波打つ澄んだピンク色の花びら、たおやかにうつむく薫り高い大輪の花が、次々と夢見るように咲く私の大好きな薔薇です。
作出者はスペインのドット。
すでに薔薇の育種で名を馳せていた彼は、スペイン動乱に巻き込まれ、持てるだけの薔薇の鉢を手に、戦火の中を
逃げ惑うという過酷な試練を課せられました。ドットが、お金や家財より大切に守り通した薔薇の一つが20世紀を代表する銘花、このスパニッシュ・ビューティーです。
愛する祖国がが二つに分かれ、同じ国民同士血を流し合う悲劇の中で守られた花、スパニッシュ・ビューティー。
内乱の果てに荒れ果てた国土と人心への、愛惜と再生への祈りをこめて名づけられたのではないでしょうか。



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二枚とも去年咲いたスパニッシュ・ビューティ。ここに来て震え上がる寒さの今年はまだまだ咲く気配はありません。
携帯で取った写真、ピンク色が一部白く飛んでしまいました(悲)。





時代を遡れば、第一次世界大戦が終わり世界に束の間の平和が蘇ったヨーロッパで、フランスのペルネは世界で始めてハイ・ブリッド・ティー・ローズで純粋な黄薔薇の作出に成功します。
20年の歳月をかけて完成したハイブリッド・ティー初の黄色。
花の名前は「スーヴェニール・ド・クリジュ・ペルネ」、つまり「クリジュ・ペルネの思い出」。
クリジュとはドイツとの戦いに出兵して亡くなった息子の名でした。
流しても流しきれない涙。
世の中がどんなに変わっても、季節が巡るたび美しい花咲かせる薔薇の花に、若くして散った数え切れない命を悼み、息子への悔やみきれぬ想いを重ねた、痛恨の命名だったのでしょう。

そして「のぞみ」。
小さな淡いピンク色の一重の花が一面に咲きこぼれる可憐な薔薇です。
作り出したのは、日本の小野寺透。
太平洋戦争のさなか、小野寺氏の妹のご家族は満州で暮らしていました。
父親が出征したあとは、母と祖母と幼い女の子の三人暮らし。
戦争が終わり、激戦地を生き抜いた父親は日本へ送還され、満州に取り残された女ばかりの一家の生活は、困難を極めました。先ず祖母が、次いで母も亡くなり、まだ3歳だった女の子は一人で帰国列車に乗って日本まで帰ることを余儀なくされます。
善意の人に助けられながら長い汽車の旅を続けてやっとの思いで日本にたどり着き、明日はいよいよ東京に着くというところまで来て、とうとう女の子は力つき列車の中で亡くなりました。
品川駅で小さな亡骸を迎えたのは、女の子の父親と、学者でありアマチュア育種家でもあった叔父の小野寺透氏でした。
ついに生きてまみえることができなかった父と娘。叔父と姪。
短い一生を終えたその子の名前は、のぞみといいました。
生き抜くことが全てであったであろう戦時中、子供たちが生きていく未来が平和であることをどんなにか願い、必死の思いで守り続けた家族、その何物にも変えがたい大事な娘を、姪を、これから、というときに失った悲しみ・・・
彼もまた、レクイエムとしてこの花を今は亡き幼い姪に捧げたのです。
日本で唯一、英国王立園芸協会の「アワード・オブ・ガーデン・メリット」を受賞した薔薇「のぞみ」は、元気であれば家族の愛に包まれすくすくと育ったであろう彼女の代わりに、世界中の庭で優しく咲きこぼれ、多くの人たちに愛される薔薇となりました。


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「のぞみ」 写真ではよくわかりませんが直径2cmあるかないかの小さな薔薇です。



ドットの「スパニッシュ・ビューティー」、ペルネの「スーヴェニール・ド・クリジュ・ペルネ」、そして小野寺の「のぞみ」。
薔薇の花に託した命と平和への想いは、花が美しければ美しいほど深く、また悲しく思い起こされます。

私が薔薇の花に惹かれるのは、その美しさはもちろんですが、長い時間の中で愛され、慈しまれて、人間と共に歩んできた薔薇の花の歴史に、人を愛することの喜び、生きることの哀しみ、痛みそして憧れといった、人生そのものを垣間見る想いがするからかもしれません。


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アリスター・ステラ・グレイという薔薇
私の好きな薔薇、アリスター・ステラ・グレイ。 咲き始めはその中心が柔らかい杏色。 咲き進むにつれて白く色が抜けていきます。 ...続きを見る
消えがてのうた
2008/05/14 08:16

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コメント(16件)

内 容 ニックネーム/日時
知り合いから頂いた真紅のバラ、玄関先が匂いでいっぱいだというが、小生は相当に接近してやっと香る位です。残念です。今、西武球場では国際バラショウが開催されています。バラの華やかさにはその名前の由来など知らないではただ花を愛でるだけになってしまいます。それぞれの花には相当に秘めたる逸話があるのですね。鎮魂花の意味を込めてあるですね。薔薇ショウの花にそれぞれの名前の由来を書いてあれば見る側にも外見以上の思いも伝わってくるでしょう。陳列だけでなく、物語を披露してほしいですね。肉親への思い入れが花に伝わっています。
人の名前もその時代の影響を受けていますが、親の子供への期待が投影されているようです。最近は一字をいただくとかの継承はなくなっていますね。
http://www.bara21.jp/7kai/midokoro.html
イエローポスト
URL
2008/05/14 01:38
こんにちは。

素敵なお庭ですね。

ボクはとてもaostaさまのような知識はありませんが、理屈抜きでバラの花が好きです。切花で買い求めて、茎を切ろうとして指が血を流したこともしばしばですが(笑)、花屋さんで真っ先に目につくのは何故かいつもバラなのですよね。

ご紹介頂いたように、それぞれのお花に込められた思いを知っていれば、ただ綺麗だとか可愛いだとかだけではなく、見方もまた深いものになっていきますね。
24hirofumi
2008/05/14 10:31
 あのバラは「のぞみ」というのですね。薔薇らしくないというか、可憐で可愛いなあと思っていた好きな種類です。「白雪姫」もaostaさんから教えていただいたんですよね。野の花も好きですが、最近はこうして人の手によって丹精込めて造られたお花を大事に飾りたいとも思うのです。
alex
2008/05/14 21:10
◇イエローポストさん

おはようございます。
早速のコメントありがとうございました。
薔薇の魅力は美しい花容にあるだけでなくかぐわしいその香りがあってこそ、という気がいたします。目を閉じて豊かな香りに包まれるときの幸福。
多くの先人が薔薇に見せられ人生をこの花に捧げた理由も分かるような気がします。
薔薇を愛するからこそ、想いを託す。
「スーヴェニール・アンネ・フランク」「ピース」「ヒロシマチルドレン」・・・列挙のいとまもないほど、たくさんの薔薇に願いと祈りが込められています。ここで、紹介したエピソードはほんの一部に過ぎません。
美しいと感じる心、大切な人への想い、平和への祈りもまた国を超えて私たちに共通のものだからこそ、名前にまつわるこうした物語に心を揺さぶられ、改めて花の美しさに見入るのでしょうね。
aosta
2008/05/15 08:57
◇24hirofumiさん

コメントありがとうございました。
24さんにはきっと薔薇の花がお似合いになると想います。薔薇の花を買うときってなんだかどこどきしませんか?どなたかのため、とかでなく花を買う、という行為そのものが心を浮き立たせるように思います。自分のために鼻を買うのは最高の贅沢ではないでしょうか。
薔薇のとげもまた、香りと同じように薔薇の魅力の一つだと思います。
美しさが隠し持つ棘は、喜びに隠された涙や痛みを連想させます。

ところで。
「aostaさま」はどうかご勘弁を。
なんだかあちこち痒くなるような気がします(笑)
aosta
2008/05/15 09:04
◇alex さん♪

ここのところ御無沙汰しておりましたのに、早速のコメントを頂きまして嬉しいやら申し訳ないやらの思いでいっぱいです。
薔薇というと誰しも重ねの多い華やかな花を想像するのでしょうが、一重の清楚な薔薇も素敵です。この「のぞみ」は一重であるばかりでなく、花自体とても小さいのですが、一面に咲いた姿はまるで桜の花を見るようです。
小さいながらつる性の薔薇なので、切花として花屋さんに出回ることはないのが残念ですが、丈夫な薔薇ですから育ててみてはいかがでしょうか。
あるときは心踊りあるときは涙する、それぞれの花に秘められた物語に想いを馳せながら、私もせっせと花がらを摘んでいます。
aosta
2008/05/15 09:46
「のぞみ」という薔薇についてお書きになったお話に思わず胸が痛くなると同時に熱い涙がこぼれて来ました。私が「青いアネモネ」に書いた画家O氏が夭折したわが娘に込めた鎮魂の想いと近似の話を(或る事実)として共有していることもあって、小野寺透氏が愛する姪を偲んで作られた可憐な薔薇にひたすら感動が大きいのです。戦争も地震も風水害も含めて人命が失われると言うことはとても悲しいことです。>愛惜と再生<への祈り、美しく咲いてくれる花々は沈黙こそしていますが、私たちの心に汲めども尽きぬ慰藉を与えてくれているのですね。そのことに日々感謝です!
我が家はともかくご近所の庭に綺麗に手入れされた薔薇が咲いているのを愛でて散歩するのは、この頃の楽しい日課の一つになっています。
sonnet
2008/05/17 22:33
薔薇の花は世界中の人に愛されていますよね。
自分は薔薇の何に惹かれるかな〜?
花と葉の色のバランス、香り、瑞々しさの度合い
花を守ろうとしている棘があるけど
気をつければ、ふれられるところですかね。
pale moon
2008/05/18 14:37
素敵なお庭ですね・・・お手入れされるご苦労を思うと、お花は気楽に観賞するだけの私は頭が下がります。
バラ園で品種の名前を見るにつけ、どんな由来なのだろうと思うことは多いのですが、調べたりすることもなく、そのままになっています。種苗家さんの深い思いがこめられているのですね。
うさみ
URL
2008/05/18 19:29
◇sonnetさん

コメントありがとうございます。
のぞみにまつわるこのエピソードは私にとっても胸を突かれるものでした。
人の命、人生の不可逆性ということを考えるとき、季節のめぐりとともに芽吹き花を咲かせる植物の健気さに心打たれると同時に、深く慰められる思いがいたします。花が美しければ美しいほど、可憐であればあるほど、悲しみは大きくなるように思いますが、その美しさ、可憐さこそが薔薇に託された想いと重なって時代や場所が変わっても、それを愛でる私たちの心をひとつにしてくれるようです。
aosta
2008/05/23 22:11
◇pale moon さん
 お返事遅くなりました。

>花と葉の色のバランス、香り、瑞々しさの度合い・・・

私もまったく同感です♪
ハイブリット・ティーの葉っぱは皮質で集めのものが多く、ちょっと繊細さに書けるような気もしますが、原種やオールド・ローズの中には葉だけを見ても色も形も本当に美しいものが多いように思います。
美しさを決めるとき、バランスやコントラストは大切ですね。
また薔薇が書くも長い間世界中の人々を惹きつけて止まない理由のひとつには芳醇な香り。薔薇の香りに包まれるときは本当に幸せな気持ちになります。
aosta
2008/05/23 22:23
◇うさみさん

こんばんは♪♪
最近ご無沙汰しておりまして申し訳ありません。
東京の薔薇の名所というと古河庭園しか思い浮かびませんが、もう東京では満開でしょうか。先日岐阜の花フェスタ記念公園まで薔薇を見に行ってまいりましたが、まだ5分咲きほどでした。
週末、お天気が良いといいですね。
aosta
2008/05/23 22:29
薔薇の名前の物語、そこに秘められた物語、
あるいは作出されたころの時代背景など
知れば知るほどおもいいれがでてきますね。
こんなサイトも
http://rosename.seesaa.net/
takasi
2008/05/25 05:10
◇takasiさん

こちらにもコメントありがとうございます。
素敵なサイトをご紹介いただきましてありがとうございました。
早速、行ってまいりました。
薔薇の歴史と人間の歴史が交錯するようなそれぞれの「薔薇の名前」を感慨深く思うところです。
aosat
2008/05/27 07:36

なんて素敵なのでしょうか
感動してしまいます
織り姫
2009/01/16 00:25
◇織り姫さん

こちらにもコメントを頂きましてありがとうございました。
名前。まさに名前なんです。
一つ一つの薔薇に付けられた名前には、みな違うドラマと思いがあるのですね。共通しているのは名前とは、すなわち「愛」であるということでしょうか。
aosta
2009/01/19 06:09

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