消えがてのうた

アクセスカウンタ

zoom RSS シューベルト 「アルペジオーネ・ソナタ イ短調 D.821」

<<   作成日時 : 2008/05/14 11:36   >>

ブログ気持玉 0 / トラックバック 1 / コメント 14


アルペジオーネという楽器についてはこのシューベルトのソナタでしか知らない。
ギターの形をしたチェロとでも言うべきか、ギターと同じようにフレットがあって、チェロの弓で演奏されたという。

ヴィオラ・ダ・ガンバに似て渋くも甘美な音色であったと伝えられるアルペジオーネは、機能的な難点もあってその寿命は短く、すぐに忘れられた楽器となってしまったのだが、シューベルトが作曲したこの一曲によって名をとどめることとなった。

シューベルトの晩期のピアノ・ソナタなど涙なしに聴くことが出来ない私だけれど、シューベルトの器楽曲の中で何が一番好きかと言えば、どちらもよく知られ長く愛されてきた小品、この「アルペジオーネ・ソナタ」であり、「楽興の時」なのだ。

何かを語りかけるように始まるピアノ・ソロに続いてチェロが伸びやかに歌いだす第一楽章、アレグロ・モデラート。
どこか憂いの影を感じさせる甘美なメロディーに耳を傾けていると、なんとも言いようのない懐かしさに胸が詰まる。
懐かしい?何が懐かしいのだろう。
何がとてこの曲にまつわる具体的な思い出や特定のエピソードがあるわけではない。
にもかかわらず、えもいわれぬ懐かしさは、かすかな痛みを伴いながら優美にそよぐ。
そう、春風の暖かさと光のように。



画像

マルタ・アルゲリッチ(ピアノ) ミシャ・マイスキー(チェロ) 録音1984年
何かを問うかのようにこちらを見つめているマイスキーの眼差しと、彼を見つめるアルゲリッチの視線。
二人ともまだ若い(!)息のあった素敵な演奏。カップリングはシューマンの幻想小品集、そのほか。




第二楽章のアダージョでも、すべらかでうっとりと、何かに憧れるような美しい旋律をチェロが奏でていく。
高みへと登っていくチェロに応えるかのようにピアノの響きは優しく柔らかく、小さな漣を立てている流れのようになだらかで慎ましい。第三楽章に入ってから、流れは光を集めながらわずかずつその勢いを早めて明るく豊かに歌う。
第一楽章の憂鬱はここにはない。チェロのピチカートの軽やかさ、ピアノのたおやかさが心に沁みてくる。
どこかハンガリー的な、素朴に牧歌的な明るさとが、私を郷愁へと誘うのかもしれない。



昨夜来の激しい雨が上がって、やっと陽が射してきた。
白樺の柔らかな緑が雨上がりの澄み切った空気の中で明るく風に揺れている。
雨のしずくと、光のしずく。
あの樹の下で手を差し伸べれば、樹は何かを囁いてくれるかもしれない。
懐かしい音楽にも似た葉ずれの音と共に。
遠く失われたアルペジオーネという楽器への想いを語ろう。
もう聴くことが出来ないその音色への憧れと、懐かしさを込めて。




     ◇追記◇

この記事にコメントをくださった木曽のあばら屋さんから素晴らしいサイトを教えていただきました。
復元されたアルペジオーネによる演奏でこの曲を聴くことが出来ます。

http://arpeggione.web.fc2.com/

木曽のあばら屋さん、ありがとうございました!!



テーマ

関連テーマ 一覧


月別リンク

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!
ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。
→ログインへ

トラックバック(1件)

タイトル (本文) ブログ名/日時
シューベルト 『魔王』 / フィッシャー・ディスカウ
中学生の音楽の教科書に載っていた。 音楽鑑賞の時間にレコードを聴いたものの、あまりぴんとこなかった。 ...続きを見る
消えがてのうた
2008/05/14 11:41

トラックバック用URL help


自分のブログにトラックバック記事作成(会員用) help

タイトル
本 文

コメント(14件)

内 容 ニックネーム/日時
夜の浜辺に一人坐って、暗い闇の向こうから私に向かって囁いて来る声をじっと待っている。空には星たちが瞬いているだけである。声はそう簡単にはやって来ない。でも私はじっと待ち続ける。声ははるか遠くからやって来るのだ。波が打ち寄せたり帰ったりする静かな響きが心地よい。こうして耳を澄ませて待つ時間が私は好きである。
アルぺジオーネ・ソナタが聞こえてくるのは、多分そんな時かも知れない。憂いと憧れに満ちた優しい歌のハーモニーが私を慰めてくれるのは・・・

たとえ今夜は声が聞こえてこなくてもそれで良しとしよう。シューベルトが替わって囁いてくれたのだから・・・

sonnet
2008/05/14 16:44
アルペジオーネ・ソナタ、お恥ずかしながら、ごく最近好きになり、ただ今、iPODでヘビーローテーションしてます。私はチェロ版で聴いてますが、ビオラ版やフルート版もあるとか? なにしろオリジナルの楽器が消えてしまったので、編曲し放題みたいな感じですが、それもこれも、シューベルトの書いたメロディーが美しいからでしょうね。やっぱすごいや、シューベルト
すとん
URL
2008/05/14 20:45
こんにちは。
アルペジョーネ・ソナタのディスクは、
マイスキー/アルゲリッチしか持ってませんが、
これ以上の演奏があるのだろうか?
と思ってしまうくらい良いですね。

ところで、アルペジョーネを再現しようと
がんばっておられる方がここに
   ↓
http://arpeggione.web.fc2.com/
音も聴けます。
木曽のあばら屋
URL
2008/05/14 22:18
図書館にゆくと、aostaさんの推されるこの曲のCDがこのほかに2つもあった。ほかにもあるのでしょうが、マイスキー/アルゲリッチは無風なのに、漣がたち、はらはら桜散る一瞬のなかにいるようです。この曲を文章にすればどうなるか。なるほど・なるほどでこの文でもどかしさがけし飛ぶようです。

イエローポスト
2008/05/15 00:40
◇sonnetさん

先日のsonnetさんのお言葉から、この曲について書いて見たいと思いつきました。遠い昔の日に呼び戻されるような淡い感傷と失われた日々への郷愁とでも申しましょうか、この曲には暖かな涙に包まれるような慰めと優しさがありますね。快活に歌う第二主題にもかすかな憂いが見え隠れするようなこの曲、ほんとうに大好きです。
本文にも書きましたが、この曲と同じく「楽興の時」も大好きです。先日CDの整理をしたときは確かにあったはずなのに、今回この曲についても合わせて書きたいと思い探したら、今度は見つかりません。ケンプの演奏ですからグラモフォンの黄色いレーベルのところを何回も目を皿のようにして探したのですが、なぜか見当たらず、書くことあきらめました。やっぱり聴いてから書きたいと思います。いったいどこに隠れているのでしょう?
aosta
2008/05/15 09:33
◇すとんさん

コメント、とても嬉しく拝見いたしました。ありがとうございます。
私はチェロによるオーソドックスな演奏しか知りませんでした。
ビオラやフルートの演奏もあるのですね。ヴィオラでの演奏聴いてみたいですね!ヴィオラ・ダ・ガンバではどうでしょう?いろんな思いが膨らみますね。シューベルトの旋律の美しさが凝縮されたような作品だと思います。「白鳥のうた」のなかにあるセレナーデと並ぶ美しいメロディではないかとおもっています。ただうっとりとその妙なる調べに耳を傾けていたい、そんな曲です。
aosta
2008/05/15 09:56
◇木曽のあばら屋さん

思いがけずもコメントをいただき、恐縮です。
何を隠そう、私もこのマイスキー/アルゲリッチ版のCDが一枚です。
レコードは他にも何枚かあったと記憶しているのですが、やはりこの二人の演奏が一番素晴らしく思います。古いCDでジャケットの色も少し退色しているのですが、写真ではあまり目立たずまずは一安心。

URL添付、ありがとうございました。
現存しているアルペジオーネがあったわけではないでしょうに、すごいことですね。失われていたのは楽器そのものだけでなく音もまた失われて久しいことを思うと素晴らしい試みだと思います。これから早速聞かせて頂きます!!
aosta
2008/05/15 09:57
◇木曽のあばら屋さん!!

聴いてきました!!
それもこのアルペジオーネ・ソナタの演奏なんですね!

(なんだか、ビックリマークだらけになっています・笑)
チェロともガンバとも違う音色ですね♪♪
みずみずしくも落ち着いた甘さのある澄んだ音色、どこか初々しい乙女のような響き(こんな書き方でお分かりいただけますか?)
こんなに素晴らしい楽器が幻の楽器として長いこと忘れ去られていたのはなんて残念なことでしょう。
HPも充実しています。ゆっくり腰をすえて読ませていただきます。
本当にありがとうございました!
aosta
2008/05/15 10:17
◇イエローポストさん
 コメントありがとうございます。

わざわざ図書館まで出かけてくださったのですか?
でも見つかってよかったです。有名な曲ですからたとえ名前は知らなくても、何処かで聴いたことのある曲なのではないでしょうか。

>この文でもどかしさがけし飛ぶようです。

う〜ん。
どの程度この曲の魅力をお伝えできたか不安なのです。音楽について書こうとすると、を実体のない言葉で表現することの難しさにいつもため息です。
せめて雰囲気だけでも感じていただければ、というささやかな思いです。
ご紹介したCDでピアノを弾いているアルゲリッチは、バリバリ弾く人、という印象が強かったのですが、このマイスキーとのデュオでは、本当にしっとりとした伴奏を聴かせてくれます。
本文記事にも加筆しましたが、もともとのアルペジオーネの演奏でも聴いてみてください。(全曲ではないのが残念ですが)
aosta
2008/05/15 12:40
こんにちは♪
お邪魔させて頂きました。
この記事を読み、ふと昔のことを想い出しました。
(曲や演奏・楽器についての想い出ではないのですが(^^;)

昔、アルペジオーネソナタというと、ユーリ・バシュメット(ビオラ)のCDを聞き、ユーリ・バシュメットの演奏会にも行ったりしました。
そしてその演奏会の1週間後、東京でのアルゲリッチのPコンチェルトの演奏会に行ったときのこと。私は2階席だったのですが、何と!近くの席にユーリ・バシュメット本人が聴きに来ていて!ビックリしながらも握手を求め・・☆
な〜んて、そういえばそんなこともあったことを懐かしく思い出しました(笑)。
久しぶりに私もこの曲を聴きたくなりました。。。
koala
2008/06/16 18:34
☆koalaさん
 おはようございます。

おいでくださいましてありがとうございました。
ユーリ・バシュメットの演奏会に行かれた後、偶然その本人に他の人の演奏会開場で遭遇され他とは、なんてラッキーでしょう!感激もひとしおだったことと思います。おまけにアルゲリッチですか?!
朝からうらやましいばかりのお話でした(笑)。

>久しぶりに私もこの曲を聴きたくなりました。。。

この曲を聴くと、何か懐かしいもの、忘れていた暖かなものを思い出して、わけもなく涙が流れることがあります。
シューベルトのメロディーには本当に「うた」がありますね。
どうぞまたお越しください。
aosta
2008/06/17 07:43
aostaさん、こんばんは。お元気ですか?

今度はこの記事に目が留まりました。というのも私は以前ビオラを弾いていたのです。(もちろんアマチュアですよ)(^^)
ビオラは本物のアルペジオーネの音に割りと近いですので、この曲はビオラの数少ないレパートリーの一つなのです。で、私も弾いて(みようとして??)いました。ですのでこの曲はとても懐かしいのです。今、何故かCDは持っていませんが、昔はトルトゥリエのEMI盤の演奏がとても好きでした。
CD出ていればまた聴いてみたいものです。
それではまた!
ハルくん
2008/11/11 22:25
◇ハルくんさん

10日から留守をしておりまして、お返事がおそくなりました。
ビオラ、今はお弾きにならないのですか?
長男がヴァイオリンを習っていた頃、私も一緒になって二分の一ヴァイオリンを弾いてみたことがありましたが、楽器の震動が直接伝わってくる感覚が何とも素敵でした。
弦楽器って楽器の中でも感性と直結しているような気がします。
中でも低音弦の音色は私も大好きです。トルトゥリエの「アルペジオーネ」は私も聴いてみたいです。彼の端正な演奏、(容姿も端正でした・笑)も素敵ですよね。
aosta
2008/11/12 10:17
こんばんは。

ビオラは今は全く弾いていません。一昨年、旧友たち大勢で旅行した時の余興にフォークソングの伴奏で何曲か弾きましたが結果は散々でした。(^^) でも定年後にまた弾き出すかもしれませんけれども。
どの楽器も感性と結びつかないものは無いと思いますが、確かに弦楽器はより直結しているかもしれません。素晴らしい感性で弾くヴァイオリン奏者に女性が多いのにも何か関係しているかもしれませんね。

ハルくん
2008/11/12 22:14

コメントする help

ニックネーム
URL(任意)
本 文
シューベルト 「アルペジオーネ・ソナタ イ短調 D.821」 消えがてのうた/BIGLOBEウェブリブログ
文字サイズ:       閉じる