消えがてのうた

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zoom RSS アナベル、それとも「わが美わしのアナベル・リィ」

<<   作成日時 : 2008/06/11 08:11   >>

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雨にぬれて露とともに憂いを含んでいる青い紫陽花、または恥らうような薄いピンク色の紫陽花。
紫陽花には雨が似合います。

私が好きな紫陽花、アナベル。
咲き始めに淡い緑色の影が射すこの花は、満開時には輝く純白となります。
緑色と白の清らかなグラデーションも美しいアナベルが咲く季節になると、涼しげな鈴の音にも似たリフレインとともに一編の詩が聞こえてくるような気がします。


画像



エドガー・アラン・ポオの「アナベル・リィ」と紫陽花の「アナベル」。
たまたま名前が同じというだけでふたつには何の関係もないのですが、この花と詩に私は、透き通るような冷たい光の気配を感じます。

わずか13歳と9ヶ月で、27歳のポオと結婚したヴァージニア・クレムは、24歳のとき、その短い生涯を閉じ、ポォもまた2年後失意の内で彼女の後を追うように亡くなりました。
ポォの死の2日後に発表された「アナベル・リィ」は、若くして逝ったヴァージニアに捧げられた詩であり彼の最後の作品でもあります。
美しく韻を踏む原詩は音楽のようです。
この詩に限らず、ポォの作品の中には若く美貌の女性たちが何人も登場しますが、そのいずれにもヴァージニアの面影が色濃く漂っています。
作品の主人公である彼女たちには、ヴァージニアと同じく死と憂愁の蔭りが碧く静かに落ちています。
たまたまの偶然とは思えないほど、ヴァージニアという名前も彼女の短すぎた人生を暗示しているように思われてなりません。
3歳で母親を、そして最愛の伴侶をあまりにも早い時期に失なわなければならなかったポォの生涯には、愛する女性の死と病が刻印されているかのようです。

一方、14歳という年齢でポォを愛し、その愛を全うしたヴァージニア。
使命を持った人間、もしくは使命を深く意識した人間にとって、外的、生物学的年齢とは別に深いところで成熟していく何かがあるように思います。また使命がその人を育てるということもまた事実なのでしょう。
もちろん彼女の中では「使命」などという意識はなかったと思います。
ただひたすらポォを求め、愛し、共に生きたヴァージニアは、まさしく「アナベル・リィ」そのものを”生きた”のです。


「私が死んだなら、あなたを守る天使になってあげる。
あなたが悪いことをしそうになったら、その時は両手で頭を抱えるの。私が守ってあげるから・・・」


極貧と病の中この言葉を残して死へと旅立ったヴァージニアには、このアナベルの純白の花冠こそがふさわしく思えてきます。



画像





アナベル・リィ  ANNABEL LEE   エドガー・アラン・ポォ


昔むかしそのまたむかし
海のほとりの王国に
その名もアナベル・リイと云ふ
ひとりのをとめが住んでゐた
わたしと愛しまた睦みあう
その念(おも)ひだけと生きてゐた

わたしも彼女もまだ稚(いと)けなく
海のほとりのこのくにで
愛より深く愛しあってゐた
わたしとアナベル・リイともに
つばさもちたる天のうへの
化人(けにん)もうらやむ愛をもて

これがためにはるかなむかし
海のほとりのこのくにで
わが美(うる)はしのアナベル・リイは
雲間の風に凍えはて
かくて貴(あて)なるはらからどもが
わたしのもとより連れ去りぬ
岩の室屋(むろや)にとじこめんとて
海のほとりのこのくにの

天使らなかばも愉しむことなく
わたしと彼女とをそねむ
これぞわけなり
(人もみな知る海のほとりのこのくにの)
夜半(よは)のむらくも風たちさわぎ
あへなくなりしかアナベル・リイ

なれど二人の愛はかたくて
齢かさねたひとよりも
さらに賢(さか)しきひとよりも
されば天なるものどもとても
海の底なるおにとても
遠ざけ得まじわたしのこころを
アナベル・リイのこころより

月のあかりに入(い)るは夢路か
アナベル・リイの美はしき
星のきららにひとみぞ偲ぶ
アナベル・リイの美はしき
こひし愛ほしわがつますべてよ
されば夜どほしわたしは身をよす
海のほとりのいわむろに
海のほとりのおくつきに

 
     訳詩は高梨吉胤さんの作品を”翻訳文学について”より掲載させていただきました。




ANNABEL LEE
by Edgar Allan Poe

It was many and many a year ago,
In a kingdom by the sea,
That a maiden there lived whom you may know
By the name of ANNABEL LEE;
And this maiden she lived with no other thought
Than to love and be loved by me.

I was a child and she was a child,
In this kingdom by the sea;
But we loved with a love that was more than love-
I and my Annabel Lee;
With a love that the winged seraphs of heaven
Coveted her and me.

And this was the reason that, long ago,
In this kingdom by the sea,
A wind blew out of a cloud, chilling
My beautiful Annabel Lee;
So that her highborn kinsman came
And bore her away from me,
To shut her up in a sepulchre
In this kingdom by the sea.

The angels, not half so happy in heaven,
Went envying her and me-
Yes!- that was the reason (as all men know,
In this kingdom by the sea)
That the wind came out of the cloud by night,
Chilling and killing my Annabel Lee.

But our love it was stronger by far than the love
Of those who were older than we-
Of many far wiser than we-
And neither the angels in heaven above,
Nor the demons down under the sea,
Can ever dissever my soul from the soul
Of the beautiful Annabel Lee.

For the moon never beams without bringing me dreams
Of the beautiful Annabel Lee;
And the stars never rise but I feel the bright eyes
Of the beautiful Annabel Lee;
And so, all the night-tide, I lie down by the side
Of my darling- my darling- my life and my bride,
In the sepulchre there by the sea,
In her tomb by the sounding sea.






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コメント(14件)

内 容 ニックネーム/日時
言葉を失くします。
pale moon
2008/06/11 22:31
☆pale moon さん
 コメントありがとうございました。

>言葉を失くします。

それは大変!言葉を捜しに出かけなくてはなりませんね。
なんだか「不思議の国のアリス」の雰囲気です。
そういえば、ポォの場合と少し違うかもしれませんがアリスの著者ルイス・キャロルの愛の対象も少女でしたね。

aosta
2008/06/11 23:05
六月の花、雨が似合う花、紫陽花、わが家でもアナベルが咲いています。
ポーの詩と言うと真っ先に上げられるのが、このアナベル・リー、生涯ヴァージ二アをSissyという愛称で呼んだポー畢生の挽歌ともいえるこのバラードは訳で読むよりも出来たら原詩をそのまま自分の口に乗せて味わう方がより詩の魅力がひしひしと伝わって来るように思います。この花の純白なイメージにヴァージ二アの面影を重ね合わされた着眼に敬服!
sonnet
2008/06/12 12:26
白のグラデーションはあるのですね。バブルのころ車で混じりけのない純白な色が実現できて大いに人気を博したことがありました。すずらんや水芭蕉や花水木や槿や沙羅の木(夏椿)、サルスベリにしてもこの夏にこそ、これらの白色は何もいわないですが、語りかけてきますね。この英文の詩を現代の俳優で誰に読んでもらったらよいものでしょう。
年齢が若くとも、使命を帯びた人間がいるのですね。宮沢賢治の妹も兄を励ますような使命を帯びていました。どうしてこの使命を感得するものでしょうか不思議すぎますね。
イエローポスト
2008/06/13 08:17
☆sonnetさん

ポォの詩の美しさはやはり原詩を声に出して読んでみないとわからないかもしれませんね。翻訳では日夏惣之助のものが一番有名かもしれませんし、昔良く読んだ福永武彦の訳もあったのですが、今回は高梨さんのものを掲載させていただきました。原詩も持つ音や韻のイメージが伝わってくる美しい翻訳だと思います。
日夏惣之助と言えば、ギュスターブ・ドレの挿絵でも名高い「大鴉」を思い出しますが、こちらも香りたつ格調高い文語がすばらしいですね。
『むかし荒涼たる夜半なりけり・・・』
翻訳というより立派な作品と言えるかもしれません。
aosta
2008/06/13 08:35
☆イエローポストさん
 こちらにもコメントありがとうございました。

白のグラデーションは本当に綺麗です。
青や緑色を帯びた冷たく凛とした白、ほんのり薔薇色や薄いクリームが射した温かな白。
透けるように儚げな白もあれば、毅然と主張する白もありますね。
アナベルの白さは緑が蔭るどこか寂しげな、けれどもすっと背筋を伸ばすような気品のある白です。

>どうして使命を感得するものでしょうか不思議すぎますね。

ああ、本当におっしゃるとおりです。
ポォとヴァージニア、賢治と敏子にしても、それが使命とは認識はしていなかったに違いありません。けれども二人がいなかったら、果たしてポォも賢治も、あのような素晴らしい作品を残せたでしょうか。
確かめ得ない真実ではありますが、「使命」は確かに果たされたのだと思います。
aosta
2008/06/13 09:51
こんばんは。先日は震災見舞いありがとうございました。
アナベル綺麗です。もう咲いているんですねえ。うちの方ではアジサイはまだまだです。

アナベル・リィ好きです。初めて知ったポオの詩がこれでした。
今年になって岩波文庫で読んだのですが、いまいち訳になじめなかったです。訳によって微妙に雰囲気が違ってしまうんですねぇ。昔読んだのは誰の訳だったのか。
できれば原詩を理解できればいいんですけど。英文としては難しくないのでしょうが、詩的な日本語に変換できないもので...。
でも、これは原詩で読むのがいちばんなんでしょうね。ロマンティックさが感じられます。
H2
2008/06/18 23:19
◇H2さん

コメントありがとうございます。
今回の地震、日を追うごとに無残な被害が報道され、胸が痛いです。
自然にも生活にも甚大な被害が出ていますね。一日も早く復興が成されることを心から祈っています。

「アナベル・リィ」、何とも不思議な幽玄な美しさを持った作品ですね。
私のつたない英語力では原詩だけで味わうことは、難しいです(笑)。
訳と原詩を対比しながら楽しむのがせいぜい・・・
この「アナベル・リィ」やそのほかの詩に限らず、ポォの作品にあふれる幻想的な詩情の美しさは格別のものがあるように思います。ほんと、ため息・・・
aosta
2008/06/20 08:11
やっと山麓に戻りました。森はすっかり緑が濃くなっていました。森の空気はいいですね。雨の中ですがぬれた緑もまたいいものだと思って眺めています。またよろしくお願いします。
森の生活
2008/06/22 19:07
お久しぶりです お元気してらっしゃる?
紫陽花 ステキですね
我が家にも紫とピンクの子たちが競いあって咲いてます
雨の雫に濡れた紫陽花を撮影したいけど
なかなかチャンスに巡り会いません
(ジョーロでぶっかけるって手法もありますが・笑)

話は変わりますが
おかげさまで明日から職場復帰&転勤&ブログ再開となりました
una復活の一役を担って下さったaostaさんに感謝!
una
URL
2008/06/30 22:08
ご無沙汰しています。
この記事に、思わずため息が出て、どんなコメントしたらと。
純白のアジサイと、美しい言葉が、いつまでも心の中に、残ります。
沙羅
2008/07/12 14:13
◇森の生活さん

コメントいただきましたのにすっかりお返事が遅くなりまして大変申し訳ございませんでした。
梅雨が明けたとたん毎日暑い日が続きましたね。
梅雨のときはあんなにみずみずしかった木々ももすっかり夏の緑になり、夏草はますます繁茂しています。
今夜は久しぶりの雨、というよりものすごい雷雨でした。
これで植物も一息つけるでしょうが、雑草はまた背を伸ばすのでしょうね・・・(怖ろしや)
aosta
2008/07/26 23:26
◇unaさん

こちらこそご無沙汰しておりますのにコメントをありがとうございました。
ブログ再開されたのですね!
反対にこちらはひとつき近く停滞していました。
私もここで、気持ちも新たにブログ再開、というところです。
aosta
2008/07/26 23:29
◇沙羅さん

こんばんは!
お返事、今頃になってしまい申し訳ございませんでした。
花期の長いアナベルもさすがに終わりました。
今はベルガモットが赤やピンク色の花をにぎやかに咲かせています。
aosta
2008/07/26 23:33

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