消えがてのうた

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zoom RSS モリスの夢見た日々

<<   作成日時 : 2008/07/05 00:42   >>

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軽井沢メルシャン美術館で開催中のウィリアム・モリス展に行ってきた。


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ウィリアム・モリスという名前の記憶をたどっていくと、一枚の絵にたどり着く。
20代のころ大切に読んでいた若桑みどりの「薔薇のイコノロジー」の口絵にあった「フローラ」だ。
背景に、忘れな草、菫、アネモネ、ツリガネ草といったさまざまな花が丹念に描き込まれ、アカンサスに似た銀色を帯びた緑の葉が優美な曲線が重なる。
月桂樹の冠を頂いた春の女神フローラは素足で花野辺に立ち、その指先からは可憐な花々がこぼれている。
ラファエル前派の画家バン・ジョーンズのデザインをモリスがタピストリーとして完成させた作品だ。
花々に囲まれて柔らかな中間色と優美な曲線をもって描かれたフローラは、ボッティチェリの「春」を連想させると同時に、後のアール・ヌーヴォーの画家アルフォンス・ミュシャの気配を先取りしている。


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この「フローラ」に続いて私が出会ったモリスは、テキスタイル・デザイナーの先駆けにしてすでにひとつの到達点に至った彼であり、またその作品であった。
モリスのデザインは人の言うように草花の繰り返しのパターンに拠るものが多い。
ウッド・プリントや捺染という手法上の制約を逆手にとったかと思えるようなリズミカルで効果的な繰り返しは、あたかも自己充足した小さな宇宙のような不思議な広がりで私を暖かく包み込む。
花はそよぎ、鳥がうたう。
いつの間にか指先から零れ落ちていった夢のかけらたちが、穏やかに静まっている箱庭の楽園・・・

モリスが生きたヴィクトリア朝のイギリスは、女王の栄光があまねく世界に満ちた空前絶後の繁栄のときであると同時に、ディッケンズの小説にも顕著な、汚濁と猥雑な底辺に支えられていた時代でもあった。
デザインのイメージのみが先行しているモリスは、デザイナーであると同時に優れた社会思想家であり、また小説家でもある。
ラスキン、バン・ジョーンズ、ロセッティ・・・
この時代、モリスとともに綺羅星のごとく活躍した人々の、多彩で豊かな才能と先見性には驚かされるばかりだ。




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小さな花や小鳥の中心に入り込む深く繊細な視線は、一点へと凝縮していきながら同時に反転して大きく広がっていくような、正反対の印象を受けるのはなぜだろうか。




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彼の作品から中近東のミニアチュールやペルシャ絨毯をイメージするのは無理のない連想だと私も思う。
だがしかし西洋絵画そのものが、中近東の細密画の影響を深く受けてきたことはその昔描かれた幾多の絵やゴブランを見てもあきらかであるだろう。
モリスの斬新さは中世の絵画の歴史以来忘れられていたそれらに再び血を通わせ、「装飾性」に積極的な価値を見出したことにあるのだろう。
美しいと感じられるものに囲まれて暮らす喜びと「生活」することの意味を再発見した人、と言うのは私の独断に過ぎるかもしれないが・・・



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メルシャン美術館に隣接するウイスキー蒸留所で。
光に透き通る蔦の葉の緑が美しいグラデーションになっていた。
ヴィンテージもののワイン、ウイスキーの心惹かれる試飲サーヴィスもあったが、飲酒運転はならじ。
ワインならぬ涙をのむ。




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コメント(10件)

内 容 ニックネーム/日時
薔薇のイコノロジー、今の年になって呼んでいますが、
フムフムと
少しづつ、繰り返しては、読み返し。
こんな学問があるんだと。
なにせ、理系専門○○、少しは、頭が柔らかくなるかと。
この絵にはほれぼれ。
そして、薔薇のウイリアムモリスには、メロメロですね。
takasi
2008/07/24 22:15
ウィリアム・モリスは美しいものにかこまれて生活する喜びを教えてくれましたね。
うつくしい庭でワイン、ウイスキーを楽しめなかったのは残念でした。
森の生活
2008/07/25 08:25
ウィリアム・モリスというと、私は夫人のジェーンも思い浮かびます。昔読んだ本で、ジェーンとは階級が違っていたけれど、ウィリアム・モリスもロセッティも、その完璧な美を崇拝したとか。8月に軽井沢に行くので、その時までやっていたら私も観てきます。
alex
2008/07/25 20:37
◇takasiさん

おはようございます。
コメントありがとうございました。
そうでしたね、takasiさんのブログでもこの「フローラ」がアップされたことがありましたね。こんなところから失礼ですが、もしよろしければTBしていただけましたら嬉しいです!
ウィリアム・モリス、なんとも魅力的な薔薇です。
takasiさんのお庭で花開く「モリスの夢」を遠くから思って胸がどきどきしてしまいました。
話は変わりますが今茂木健一朗さんお「欲望する脳」を読み始めました。
面白い!!です。
aosta
2008/07/27 09:01
◇森の生活さん

こちらにもコメントありがとうございました。
夏の風に揺れるヒナギクやヤグルマギク、ツリガネニンジン、眠気を誘うミツバチの羽音や、森で鳴き交わす鳥の声・・・
モリスの世界はここ八ヶ岳周辺にもあふれていますね。
ちいさな発見や喜びにみちた森の生活さんの目線にもまた、同じものを感じます。
aosta
2008/07/27 09:07
◇alexさん

このブログを忘れずにいてくださいましてありがとうございます!
しばらくPCから遠ざかっておりましたが、戻ってまいりましたので、またよろしくお願いいたします。

軽井沢、行かれるのですね。
ここからは近くて遠い軽井沢・笑。もう何年もたずねたことがありませんでしたがモリス見たさに一念発起!行って本当に良かったです。
alexさんのご予定8月にはもう終了しているかと思われとても残念です。
バン・ジョーンズ、デザインのステンドグラスのレプリカも多数展示されていました。神秘的、天上的なモリスの青に、いっとき自分のいる場所をわすれました。
aosta
2008/07/27 09:15
aostaさん
お久し振りです。7月はまるきり外に出掛けていましたので、私もすっかりアップがゼロのまま過ぎました。
今を去ること10年位前に近代美術館でモリス展を見て以来、折々の機会にその時の記憶を新しくしていましたが、今日又aostaさんのお陰でモリスや、周辺のラファエル前派の芸術のことなど色々思い出すことが出来、とても嬉しく思いました。いつもながら行き届いた繊細美麗な文章にすっかり酩酊気分です。2年ほど前に新日曜美術館でケルムスコットプレスのチョーサー著作集を林望さんが手袋を付けて大切に開いて紹介なさるのを、画面を通しながら溜め息混じりに見たことやら、モリス夫人のジエーン・バーデンをモデルにしたロセッティの「プロセルピナ」のこと、さらには、真夏の怪談もどきにロセッティーが妻のエリザベス・ジダルの墓を掘り返して彼女に捧げた詩の原稿を取り出した奇怪な行動などなど、いっぺんに連想が膨らんでしまいました。
sonnet
2008/07/31 23:56
ログインが決まらないのでクリックをもう一度したらダブってしまいました。お手数をお掛けしますが削除をお願いいたします。
ジョン・エヴァレット・ミレィ展が8月30日より10月26日までBunkamuraミュージアムで開催されます。油彩、素描約80点が展示されます。有名なオフィリア(制作過程の逸話が面白いですね)は以前に見ていますが再会が楽しみです。漱石先生の「草枕」などでイギリス美術に親しんでもう何年になるのやら、出来ればイングランドの田園など美しい自然を再び旅をしてみたいものです。
sonnet
2008/08/01 00:28
◇sonnetさん

こちらこそすっかりご無沙汰しておりまして申し訳ございませんでした。
私も6月末から生活が激変いたしまして、PCを開く時間も余裕もないまま、ひとつき以上が過ぎてしまいましたが、ここにきてやっと新しいリズムにも何とか慣れて、ブログ更新の気力が出てまいりました(笑)。
今回のsonnetさんのコメントには、琴線に触れる言葉がいくつもあり、大変嬉しく思います。ありがとうございました。
ラファエル前派についてはまたブログを建てようかと思います。
alexさん、sonnetさんのコメントにありました、ジェイン・バーデンについても何書ければいいのですが・・・
aosta
2008/08/01 18:48
◇sonnetさん

ジョン・エヴァレット・ミレィ展については何も知りませんでしたので、お知らせいただきましてとても嬉しいです。確かフェルメール展も開催されますよね。9月上旬、上京の予定がございますので、何とか時間を作って駆けつけたいと思います。

川面に浮かぶオフィリアと言ったら真っ先に浮かぶのがミレイのあの絵です。オフィアが切れ切れに口ずさむ歌さえも聞こえてくるような詩的な作品ですね。

>出来ればイングランドの田園など美しい自然を再び旅をしてみたいものです

私もイギリスと言えばロンドンしか知りません。
それも美術館ばかり(笑)。人の行かないような小さな美術館や博物館を巡り歩いておりました。でも最近は、花の季節のイギリス、それも世界中で一番美しいと言われる6月のイギリスの田園を、B&Bに泊まりながら、のんびり旅するのが夢です!
aosta
2008/08/01 18:58

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