消えがてのうた

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zoom RSS 「蛇」  縄文の造形 (T)

<<   作成日時 : 2008/08/30 13:02   >>

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小学生のときだったか、もう中学校に入っていたか。
初めて見た縄文土器はおどろおどろしいまでの情念にあふれていた。

装飾過多としか思えない、さまざまな意匠によって埋め尽くされたそれは、どこか妖しいまでに生き物めいていた。
言いようのない不安、今思えば、一種の急迫観念に近い感じが確かにあった。
私は恐れにも似た拒否反応とともに、その熱い息を吹きかけられたような記憶を何年も遠ざけていた。
けれどもいま再び間近に見る縄文の造形は、あの時とは異なる表情で私に語りかけてくる。

茅野市にある尖石(とがりいし)縄文考古館
遅ればせながら、縄文のすべてが過剰な造形とは限らないと言う発見をしたのはこの夏だった。
尖石遺跡を代表する土器のひとつ、蛇体把手付深鉢。
昭和の初め、宮坂英弌(ふさかず)によって発掘されたこれらの土器は、その底辺部から口縁へ、優美な曲線を描いて広がるシンプルな造形だ。
胴の部分に刻まれた文様もまた単純な線文。


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だがしかし、いったん広がった胴部は、その口縁で内側へと折り返すようにベクトルを変える。
そしてその縁に絡むのは、三角形の頭部を持ち、蛇目文といわれるマムシ特有の丸い紋が刻まれた蛇、まるで誇るかのように鎌首をもたげ、とぐろを巻き、威嚇する一匹の蛇だ。
簡潔にして一切の過剰を抑えた、潔いまでのデザイン。
脱皮を繰り返して成長し、強靭な生命力を持った蛇が縄文の人々の畏怖の対象であったことは想像に難くない。
まして猛毒を持ったマムシともなれば、生命と死のダブルイメージであったとしても不思議はなかろう。

尖石は今から約5000年前、西暦で言えば紀元前3000年、ちょうどエジプト文明とほぼ同時期に八ヶ岳山麓で絶頂を迎えていた縄文中期の遺跡だ。
言葉はあっても文字を持たなかったこの時代の人々が、あふれる情念を共通のシンボルやイメージに託して作り上げたであろう縄文の造形は、見る人に雄弁に語りかけてくる。
一切の無駄を省いて、視線を蛇へと集中させるシンプルなデザインは、斬新と言ってもいいほどに洗練され美しい。




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 右が昭和8年、左が昭和24年に尖石遺跡からほぼ完形で出土した蛇体把手付深鉢  尖石縄文考古館所蔵



この時代、こうした土器を作る専門の職人がいたとは思えない。
しかし土器作りの技に秀でた人、卓越した技術を持った人間は確かにいた。
あるときは土器の表面を埋め尽くす過剰なまでの情念を刻み、またある時は冷静にして審美的な観察者として対象をデフォルメする。
静と動の限りないダイナミズムを抽象的にまた具象的に造形した縄文の感性が、今かつてない熱さで私を魅了する。







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コメント(9件)

内 容 ニックネーム/日時
小学生や幼稚園児が土器つくりの体験をしていました。上手に作っていました。縄文人のおもいのいくばくか、経験できたのではないでしょうか。
森の生活
2008/09/07 16:54
西東京市の郷土資料室主催で下野谷遺跡(西武線の東伏見駅の南の早稲田大学のグランドと武蔵関公園のやはり南の石神井川の流域にそった西東京市と練馬区にまたがる)というがあり、関東でも屈指の縄文中期の環状部落があり、その公開説明があったとき、土にまみれた縄文土器の破片を洗ってみてくださいという企画がありました。触ってみると破片ですが、ずいぶん感触が違いました。別の企画では縄目を作ってみたりして、縄文の多様性は千変万化して、これは単純ではないとも思いました。この縄文時代の交流域の広さ、人の能力の大きさは凄いものだと思いました。
イエローポスト
URL
2008/09/08 06:51
西東京市にも西武新宿線の東伏見駅の武蔵関公園の石神井川の南に隣接する下野谷遺跡は関東屈指の規模の環状集落の遺跡がありました。その発掘現場で縄文土器の破片を洗ってみてくださいとい企画がありました。完全な形ではなく、4.5cm角の小さなもので、縄目も一筋位でした。しかし縄文の土器を製作した人と握手したような気になったのは不思議でした。あの時代は長野や東北まで交流があったようですし、縄目の制作もやってみると、千変万化の多様性には驚かされました。
イエローポスト
2008/09/08 07:00
◇森の生活さん

コメントありがとうございます。
この蛇体把手付深鉢は最初の展示室に飾ってあります。
考古館の入場券に押されるスタンプもこの蛇体把手付深鉢のデザインです。朝顔形に開いた形が何ともお洒落です。

子供ばかりでなく大人も土器作り体験できますよ。夏休み中は大変な混雑でしたが、秋風の気配と共に考古館も静かになりました。
aosta
2008/09/08 14:40
◇イエローポストさん

>触ってみると破片ですが、ずいぶん感触が違いました

何千年もの間、日の目を見ることなく地中に埋まっていたものが再び出現する瞬間を思うだけで、胸がドキドキしてしまいます。
実際に触って見る機会があったなんてとても素敵な体験をなさったのですね。仰るとおり、縄文の多様性は、想像以上です。
従来考えられていた縄文文化は、もっと原始的というか自然に依存したその日暮らし的なイメージでしたが、相次ぐ遺跡の発掘で、精神的な深さや豊かさが随分見直されてきました。私などは、八ヶ岳近くで生まれ育ったせいでしょうか、縄文人に弥生人以上の親近感を持っています。
aosta
2008/09/08 19:48
素敵なエスコートですね。寡黙な土の器が、このガイドで、血も肉も備えた生き物となり、想いを一気に吐き出したかです。蛇体把手付深鉢、趣向を凝らしたデザインにはもう飽き飽きしている現代にはむしろ新しく新鮮です。
尖石、紀元前3000年、エジプト文明と同時代。発掘されるまでじっと待っていたのでしょうね。自分が何とか残ってあの時代を身をもって証言しなければならないと。
これから土器をみるときには、縄文なら5000年前のメッセージを聞分け、いえ見分けられればと思いますが、はてこの私にできるかな?
蛇のイメージって定まっちゃってますが、最近蛇のイメージを覆す童話創作に挑戦したばかり。これがお写真の縄文土器のように日の目を見ますかどうかは、これも?なのです。してみると、この土器がこうして日の目をみたのは、奇跡中の奇跡ですね。
bunna
2009/08/11 23:45
◇bunnaさん

御返事が遅くなりまして申し訳ございませんでした。
蛇体把手付深鉢、何ともモダンで現代でも十分通用するデザイン・センスだと思います。同時代のエジプトでも蛇は様々な意匠で表現されていますね。
蛇の生命力や脱皮の不思議は世界共通の感覚として蛇に対する一種崇敬にも似た感情を抱いていたのかもしれません。
こうした遺物を見るたび、いつも思うのは、何千年もの間闇の中に埋もれていたものが再び日の目を見るときのめくるめく感動です。長い長い間、完全に忘れ去られていたこれらの遺物に再び命が通い始めるときの慄くような感動を思うと、「その時」に立ち会えた人に羨望の眼差しを送りたくなります(笑)。

>最近蛇のイメージを覆す童話創作に挑戦したばかり

bunnaさんは童話もお書きになられるのですか?
蛇の「イメージ」と言えば、暗い負のイメージが浮かんでしまいますが、再生の象徴でもあったことには大いに納得するところでもあります。
nunnaさんがお書きになられたという蛇の童話、とっても読んでみたいです。


aosta
2009/08/14 22:07
博物館の記憶といえば、匂う古着を着た異物の羅列、みな命がなくもの悲しい、殺伐としたもの悲しさでした。ただ鉱物などはそんな中でも例外でしたが。しかしこのブログで、雄弁にものいう存在と変りました。視点を学んだのです。みな何者かによって選ばれた時代の代表者たちですね。

う〜ん、童話を書くときはどっぷりとその中に浸かり得々でしたが、主人からは、平凡だ、話に意外性がないと酷評でした。そのうち、何とかしてお目に掛けたく思います。冬がくるまではお忙しいのでしょう。仕事、家事、趣味といかにご多忙かが分かります。ご自愛を。
bunna
2009/08/16 23:27
◇bunnaさん
お返事が遅れまして申し訳ございませんでした。

私は博物館が好きです。
気も遠くなる時間の流れの中で眠り続けていた人間の歴史の形見とも言うべき遺物たち。今を生きている私たちの共感や知的好奇心によって、物言わぬ人間の営みの形見ともいうべき遺物に、再び命が与えられるように思います。
例えどんなに小さくささやかなものにも物語がある、という意味で、わたしにとっての博物館は図書館に近い感覚と言ってもいいかもしれません。
bunnnaさんのおっしゃる通り「みな何者かによって選ばれた時代の代表者たち」が愛おしく思えてきます。

特に蛇は、予期につけ悪しきにつけ、世界中あらゆる民族の神話の中でも象徴的な役割とともに登場しますね。
現在では忌み嫌われることの多い蛇ですが、かつては神秘的な生と死の表象であったことを思いますと、それだけ人間に近い存在であったのでしょう。
その意味でもbunnnaさんの「童話」を読んでみたい!
勝手に楽しみにしています。

>仕事、家事、趣味といかにご多忙かが分かります

有難うございます。要領が悪いというか、ぶきっちょというべきか、どれも中途半端でなかなか納得のいく仕事ができません。その上、やらなければならないこと、より、やりたいことを優先してしまい、いつもアップアップしています(笑)。
aosta
2009/08/19 07:48

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