消えがてのうた

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zoom RSS ブラームス 「四つの厳粛な歌」 / キャスリーン・フェリアー

<<   作成日時 : 2006/11/05 00:33   >>

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 私が聴いたのはサー・マルコム・サージェント指揮BBC交響楽団。
歌は私の大好きなコントラルト歌手、キャスリーンフェリアー。
録音は1949年。当然モノラルです。
DECCAから出た「キャスリーン・フェリアーの芸術」の中の一枚。
このシリーズ全10巻を揃えたくて、あちこちのCD屋さんを探し回り、やっと手に入れることができました。。
 ブラームス最晩年のこの歌曲集、彼女の個性的ともいえる声の、絶頂期の録音です。

さて、この「四つの厳粛な歌」。
クララの死、そして自らの死をも予感していたであろう時期に書かれたこの曲には死の影が色濃く落ちています。
しかしながら、何をして「厳粛」というのでしょうか。
死に対して?
死を待ちながらも生きるという人生のパラドックスにおいて?
もちろん「死」は、いつにおいても厳粛なものですが、ここでブラームスが表現しようとした想いは「死」そのものではなかったような気がします。
残酷で時に無慈悲な死を超えて「生きるもの」・・・
死をも超越したひとつの意志としてしての「愛」・・・
 クララの死後、ブラームスはこの曲を、自分だけのものとして、演奏会で用いられることを拒んだそうです。
この歌曲集が彼にとって特別なものであったことは否めません。
彼が終生愛し続け、新しい曲を作曲すれば真っ先に彼女の感想を求め、その意見に従ったというブラームス。
クララへの愛と尊敬と感謝。
この曲集は、ブラームスからクララへの厳粛なささげ物なのかもしれません。

第一曲、オーケストラが重く厚く演奏する沈痛なアンダンテと急転直下のアレグロを、フェリアーの歌はものともせず「死」を紡いでいきます。

One thing befalleth the beasts and the sons of men;the beast must die,the man dieth also,yea,both must die
 ここで歌われる、"must die"
それから第三曲で繰り返される"O death"
それは、絶対的な優位を持って迫って来る「死」です。
しかしながらフェリアーは、この「死」を怖れつつも、呼びかけるように歌います。
死を宥め、死を慰めるように・・・
少なくとも、私にはそう聴こえてくるのです。

そして終曲。
暗い悲哀と絶望の淵から、あえぐように始まるこの曲が、第四曲にいたって『このように、いつまでも存続するものは信仰と希望と愛と、この三つである。このうちで最も大いなるものは、愛である』と輝かしく歌うとき、フェリアーの深く暖かなコントラルトはまさに玲瓏と響き渡ります。
 なんというドラマティックな変容でしょう。
サージェントが彼女のためにオーケストラ用に行った編曲により、この曲の持つ大きさ、深さ、力強さといったものがより鮮明にこの大きな死から希望への振幅を、よりドラマティックなものとしているような気がします。
死を克服するものは「復活」ではなく「愛」であると歌うフェリアーのなんと高らかなこと。
そしてそれはブラームスの想いでもあるのでしょう。
フェリアーの声の魅力が全て花開くようなこの曲。
美しく、慈しみに満ちて開放される希望。
何度でも聴きましょう。
心が何者かに静かに満たされていくこの最後の曲を。 

画像


この「四つの厳粛な歌」作品121は、ブラームスの師であったシューマンの妻クララが脳出血で倒れた直後のブラームス自身の誕生日(5月7日)に完成されました。
 クララはこの曲を聞くことなく、二週間後の1896年5月20日に天に召されました。
恩師の妻としてだけではなく、一人の女性としてクララを愛し尊敬していたブラームスも、このときすでに癌に侵されており、翌1897年、クララのあとを追うように63歳の生涯を閉じました。
 
題名にも示されるように4曲から成るこの小さな歌曲集は、その第一曲から第4曲まで聖書からその歌詞が取られています。
第一曲「人の子らに臨むことは」および第二曲「わたしはすべてのしいたげを見た」は旧約聖書のコヘレトの言葉三章四章から、そして第四曲「たとえ人々や天使のことばで語っても」は新約聖書の「第一コリントの信徒への手紙」十三章からということです。

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コメント(14件)

内 容 ニックネーム/日時
なぜブラームスなのに、英語なのでしょう。
Stanesby
2006/11/05 00:53
◇Stanesbyさま

>なぜブラームスなのに、英語なのでしょう。
ごもっともです。
私もそう思いましたもの。
ただキャスリーン・フェリアーに関して言えば、この歌曲集に限らずドイツ語の歌を英語で歌っているものは他にもいくつかあるようです。

今では、あまり考えられないことなのですが、1949年の録音当時の事情はまた違ったのかもしれません。
 彼女がドイツ語を話せなかったという訳でもなさそうです。
「マタイ」は確かドイツ語で歌っていたはずですし・・・

aosta
2006/11/05 02:06
僕の勝手な憶測です。
彼女は、イギリスに伝わる古い歌を蘇らせた人ですよね。
こよなく祖国イギリスを愛していたのでしょう。
この曲に限らず、彼女が残した英語による歌唱の録音は、
いまや彼女の金字塔となったと言ってもいい...。
彼女の功績の一つでしょう。

あくまで英語に拘ったかどうかは、aostaさんの仰るように
例外があるので、僕の説に信憑性ななくなりますが、
もともとドイツ語で書かれたブラームスのこの曲を、
英訳がすでにあったなら、フェリアーは迷うことなく
英語で歌ったことは想像しがたくはありません。

ひょっとしたら、フェリアのために、この曲集を
英訳した人が出てきたとしても、ブルーノ・ワルター
のような人がいましたから、ちっとも不思議では
ありません。

真相は全く知りません。 m(__)m
Stanesby
2006/11/05 02:29
◇Stanesbyさま
 おはようございます。

>この曲に限らず、彼女が残した英語による歌唱の録音は、いまや彼女の金  字塔となったと言ってもいい...。
 彼女の功績の一つでしょう。

私も素直にそう思います。
それまで省みられなかった古いイギリスの歌。
もしかしたら、彼女自身がその幼い頃から耳にして育ってきたのかも知れないような身近なメロディ。
そうした「小さなもの」を彼女は慈しみ愛することが出来た人であったのでしょう。
彼女のためにオーケストラ編曲をしたというサージェント、彼女を見いだし絶えず彼女を引き立てたワルター。
世界中の誰からも愛されたと言われたフェリアーの人となりを物語るエピーソードは一杯ありますね。

声楽において専門の教育を受けなかったという彼女の声は、ひとつの奇跡のようです。
何ものにも損なわれることなく自ら完成されたその声を聴くたびに、私は暖かな慰めをもらいます。

真相・・・案外Stanesbyさんおお考えが当たっているかもしれませんね。
aosta
2006/11/05 07:35
本文、推敲(変更)されました? 何だかスッキリしましたね。
Stanesby
2006/11/07 00:21
◇Stanesbyさま
 おはようございます。

>何だかスッキリしましたね。
ありがとうございます。
ご指摘の通り、あれからこっそり手を入れました(笑)
本文も少しばかり変えてみました。
自分の好きなもの、文章にするのは反って難しいですね。
aosta
2006/11/07 06:40
TBありがとうございました。

いま、CDを注文したところです。
音楽配信(iTS)を利用しようかと思ったのですが、No.5だけはありません。
John Newmark ピアノ伴奏の録音でいいか、とも思ったのですが、Amazon.comで試聴ページをみつけ、迷いを断ち切りました。

こちらに戻ってきたら、記事も手直しされ、肩を押されているのだなと=^_^=

折りよく、ビーバーとペレイラも到着しました。
ああ。動けなくなったの、わかります。
Suzuka
2006/11/07 11:56
こちらこそ、いつもTBありがとうございます。
bTというのはフェリアーのあのシリーズのことですか?
わざわざ、探してくださったなんてすごく嬉しいです。
今では、その名前を知っている人も少ない名コントラルトです。
初めて聴いたときは、ちょっとびっくり。
彼女の「自然な」発声による不思議な声、暖かで、非常に深いところから届くような、その声。
現代のコントロールされた発声に慣れた耳には最初のうち、異質かもしれません。
bT、みつかりますように。
見つからなくても、PCで送ることも出来るという話を聞きました。
私のお友達のPCの達人にお願いしてみようかしら?

おまけにビーバー、ペレイラまで!!
Suzukaさんの貴重なお時間を頂いてしまったような気持ちです。
何か小さなことでも琴線に触れるもをのを見つけてくだされば、嬉しいのですが。
それにしても、「恐縮」!
aosta
2006/11/08 09:33
うふ。
けさ届きまして、いま聴いています。

ビーバーの方は、朝が似合って
こちらは夜聴くのにいいかしら
なんて、脈絡もないことを思いつつ かけています。

フェリアーは、「亡き子をしのぶ歌」も定評がありますね。
まよったのですが、まずはブラームスからにしました。

ピアノ伴奏の方は、あのシリーズの10に収録されています。

PCで送るのは、・・・ちとまずいですネ。

「恐縮」だなんて、とんでもない。
とっかかりがなかったところに
道をつけていただいて、シアワセです♪

Suzuka
2006/11/08 12:23
◇Suzukaさま

フェリアーは、ワルターとともにマーラーを世に知らしめた人と言ってもいいと思います。
「亡き子をしのぶ歌」「大地の歌」などすばらしい録音がありますね。

シューマンの「女の愛と生涯」こちらもいいですよ。
aosta
2006/11/09 06:41
著作権で保護されているものをPCで送ってはいけませんね。
自分が演奏した録音なら問題ないと思いますが...。 (^^♪
Stanesby
2006/11/09 22:38
◇Stanesbyさま

>著作権で保護されているものをPCで送ってはいけません。
なるほど、言われてみればその通りですね。
日本著作権協会のみなさま、軽はずみな思いつき、発言お許しくださいませ。
aosta
2006/11/09 23:13
aostaさんの記事を読んで、久しぶりにフェリアーのバッハを聴きました。やわらかな声が懐かしかったです。いいですね。
森の生活
2007/11/06 13:25
◇森の生活さん
 こんなところにまでコメントいただきましてありがとうございました。

フェリアーのバッハ、いいですね!
フェリアー、父が好きで良く聴いていましたが、私の同世代で彼女の名前を知っている人はまずいませんので、森の生活さんがフェリアーをお持ちとうかがってとても嬉しいです。

私も触発されておもわず「マタイ受難曲」からのアリア他を聴いてしまいました。やっぱりフェリアーは「特別」です。
出だしのヴァイオリンソロからすでに気持ちは高まってしまって、フェリアーが「哀れみください」と歌いだしたとたん、涙が出てきそうになりました。
柔らさ深さ、力強さと繊細さとを併せ持った、気品に溢れたフェリアーのコントラルト、言葉では説明できないすばらしさです。
aosta
2007/11/07 05:47

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