たんぽぽ、タンポポ・・・

昨夜来の雨が上がって、昼前後から陽が射してきた。
うららか、という言葉がぴったりのまるで春の陽射し。
そういえば先週だったか隣町の陽だまりに福寿草が咲いているのを見たっけ。
例年ならば、まだ氷点下の朝晩、まだしっかり雪が残っている季節に、ぽっかり金色の福寿草のひとむれは、なんだか不思議な光景だった。

金色の春の花。
タンポポ。
「君はタンポポのような女性だから」と言ったか言わなかったか、まったく記憶には無いのだが、
宮本信子演ずる主人公の名前が確か「たんぽぽ」・・・
ということで今日のブログは伊丹十三の映画『タンポポ』
前置きが長い?
すみません。なかなか本題に入れないのが私の常、なにとぞお許しのほど。

さて、やっと『タンポポ』。
見たのは、もう20年近く前になるか、当時の転勤先、水戸市の駅近くの映画館だった。
見終わった後、やたらラーメンが食べたくてラーメン屋さんを探し回ったことを覚えている。
ラーメンに限らず、おいしそうな料理や、わすれられない「食の場面」が他にも沢山あった。
やたらお腹がすいた映画でもあった。
 貧相なホームレスが、深夜、こっそり忍び込んだレストランの厨房で鮮やかな手つきで作り上げるオムレツ。ふっくらと優雅な曲線を描いたその背にナイフを入れれば、おいしそうな湯気を立てて金色した半熟卵がとろりと流れ落ちる瞬間。もちろん、味わえる訳はない。
しかし、舌がありありと想像するその柔らかさ、暖かさ、ほのかな甘みと芳醇なバターの香り。

画像


そう。こんなシーンもあった。
とある高級レストラン。会社のお偉方がおそろいで食事をする場面。
社長だったかなんだったかとにかく鼻持ちなら無い男に、ひたすらへいこらする部下。
しかしながらウェイターが持ってきたフランス語のメニューを誰も読むことができないまま、社長以下右に倣えで、オーダーは揃いも揃って舌平目のムニエル!!
ところがあろうことか、みんなが一番下っ端の、単なる鞄持ちくらいに思っていた冴えない男の手にメニューが渡されると、彼はいとも流暢なフランス語を駆使して、誰も知らない料理を(多分)フルコースで注文する。
目をむいたのは、それまで、ふんぞり返っていた上司たち。
こころなし「鞄持ち男」にそっけなかったウェイターの態度は一変する・・・
 それから、もうひとつ。
場面はやっぱり高級レストラン。
みるからにスノッブな奥様族のテーブルマナーの講習会が開かれている。
講師(岡田万梨子だったか?)気取って「正しいスパゲッティの食べ方」について、とうとうと話し続けるのを近くで聞いていたのは一人のイタリア人(だと思う)。
彼は、いい加減、うんざりといった表情でオーダーしたスパゲッティを猛然と食べ始める。
スパゲッティをすすり上げ、飲み込むその音の凄まじさ。
途端にそれまで講師が教えたとおり「上品に音を立てないように」おちょぼ口で食事をしていたご婦人方は、われ先にと、本場「イタリア人」の真似をして音を立ててスパゲッティをすすりこむ。
最後には、泣き笑いの講師も一緒になってズルズル!
口いっぱいにほおばるその表情はなんとも壮絶で、同時にグロテスクだ。

どちらも、伊丹十三の独壇場ともいえる皮肉でこっけいなシーン。
大笑いさせながらも、人間の上下関係の滑稽さ、無意味さ、つまらない見栄や、良しとなったら考えることなく同調する浅はかさについて思わず考えさせられる場面でもある。

忘れてはいけない。
重い寸胴なべを抱えて日夜奮闘する宮本信子の凛々しさ、初々しさ。
ラーメンの基本から奥義まで指導する山崎勉のかっこよさ。
でも、私が一番うなったのは、役所広司演じるところの白い服を着たちんぴらヤクザだった。
ストーリーとまったく無関係に(と、私には思えた)話の中に割り込んできたかと思えば、愛人との官能的なラブシーン。なんだか、あぶないフランス映画に出てきそうな場面だった。
このヤクザが最後に銃で打たれて死ぬ場面などは、かつてのゴダールの映画を思い出した。
確か渡辺謙も出ていたはずなのだが、このヤクザを追い回して殺しちゃう役だっただろうか?

たんぽぽ、タンポポ・・・
書き始めたらきりがない。
とにかく書きたいことが満載の映画なのだ。
『ヨーロッパ退屈日記』や『女たちよ!』を読んで、彼一流のこだわりにひっくり返る思いをしたのは二十代半ばだったか・・・
気障ともいえるその本物志向と博識に、ただただ圧倒されていた。
その後「ポテト・ブック」なる、その名の通りジャガイモ料理だけ紹介した本の翻訳もしていることを知って、即購入した。この本は今も私のキッチンにあって、献立に悩むときの良きアドヴァイザーとして活躍してくれる。料理についての薀蓄もさすが!である。

はて?今回私が書きたかったことはなんだろう?

たんぽぽ、タンポポ・・・
なんだか大島弓子の漫画のタイトルにもありそうな。

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この記事へのコメント

2007年02月13日 06:00
たんぽぽ
映画見ましたよ。
aostaさんのこの文を見ながら
鮮明に思い出しました。
いい映画でしたね~~。
昨夜は、オムレツではなく
オムライス食べました。
2007年02月13日 06:26
◇takasiさま

おはようございます。
そしてコメントありがとうございます。
伊丹十三さんの映画はみんな好きなのですが、一番は?と聞かれたらこの「タンポポ」かもしれません。
「いい映画でしたね~~。」のtakasiさんのお言葉の通りですよね。

>昨夜は、オムレツではなくオムライス食べました。
実は、迷ったんです・・・
あのホームレスが作ったのがオムレツだったのかオムライスだったのか、はっきり覚えていなかったので(笑い)。
lavie
2007年02月15日 21:33
「タンポポ」
「スーパーの女」をテレビで放映して、その後伊丹十三さんの映画が、何本か特集されて、「タンポポ」も放映されたことを覚えています。
「スーパーの女」がおもしろかったので、「タンポポ」も見ようとしたんですが、しかと覚えていないんです。睡魔に負けたのかな。
伊丹さんが、亡くなられた後も、宮本信子さんがしかと生きておられて、その生き様に強さを感じます。
2007年02月16日 07:42
◇lavieさん

「スパーの女」も傑作でしたね。
津川雅彦演ずるところのスーパ店長と、柔らかい桃(?)にばかり指を突っ込みたがるお婆さんとの珍妙で必死なやり取りがおかしくて・・・
伊丹さんて、すごく人の心理に対する洞察が鋭い人でした。
伊丹流のブラックなーモアと一抹の悲哀で味付けされたその表現は、彼だけの感性、誰にも真似の出来ないものですね。

この「タンポポ」はアメリカすごく受けたようです。
それもうなずけます。

宮本信子さん、生き生きと魅力的に活躍していらっしゃいますね。
強い女性です。
2007年03月11日 19:26
こんばんは。
「たんぽぽ」はなかなか味わい深い作品ですよね。
高級レストランでの昼食会は特に印象深いです。自分はサラリーマンだからなのかもしれませんね。昼食会は実際にあります。あんな高級な店にはいけませんが、割と庶民的な店でやります。会社なので仲良しよしよしとはいきません。誰しも嫌な上司や人間と食事する経験はあるはずです。それであの場面はあるあると説得力を持つのです。
ただのかばん持ちなのに、なぜか食通です。こんな風に感じました。実家が金持ちで、海外旅行にも時々行きます。海外の本格的な、そしてまだ日本に紹介されていないような三ツ星レストランでの食事の経験があります。ひょっとしたらコネで会社に入って、あまり仕事が出来ずパワハラを受けているのかもしれません。日頃の恨みつらみを食事会で返してやるんです。江戸の仇を長崎で討つみたいですね。サラリーマンならあの場面に何か思うはずです。
2007年03月12日 21:47
◇ピーターキャットさん
 こんばんは。
 コメントありがとうございます。

現実に、その中で働いていらっしゃるピーターキャットさんに対して失礼な事を申し上げるつもりは毛頭ありませんが、組織の中ででの上下関係、力関係、往々にして理不尽であり、時にばからしい事もあるのでは、と思っても見たりします。
そうした組織の中で、普段は無視されっぱなしの『ただの鞄持ち』が、一転してスポットライトを浴びるシーン。
「溜飲が下がる」とはこういうときのことを言うのでしょうね。
見た目さえない、ボーヤのような鞄持ち君を演じた俳優さんの名前が、ちょっと思い出せないのですが、適役でした。

今思い出したのがもう15、6年前になるでしょうか、「王様のレストラン」というテレビ番組がありました。
脚本は今をときめく三谷幸喜。
テレビをほとんど見ない私ですがこの番組だけは、毎週欠かさず見ておりました。「食」にまつわるエピソード、涙あり笑いあり、毎回抱腹絶倒の面白さ、伊丹十三とはまた違うひねりかたを楽しみました。

「江戸の仇を長崎で討つ」
実は私の得意技でもあります(笑)

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