『シンフォニア』 /  ヒルデガルド・フォン・ビンゲン

ヒルデガルド・フォン・ビンゲンは12世紀初頭、「ラインの女預言者」として知られていた女流作曲家です。

第一回十字軍が起こされて2年後の1098年、ライン河近くの町ベルマースハイムの貴族の家に生まれたヒルデガルドは、わずか8歳でベネディクト会の修道院に預けられ、1115年、17歳で正式に修道女となりました。
1141年、43歳のときに天啓を受け、超自然的実在を視聴覚でとらえる能力が与えられたということです。
彼女が遺した著書は宇宙論から医学、博物学にまで及び、教会典礼のために作曲された数々の音楽は、当時の大音楽家、フランスのオドもその独創性に対して賞賛の書簡を送ったほどでした。

彼女の音楽や思想は、一般庶民ばかりか、時の神聖ローマ帝国皇帝フリードリッヒ1世や教皇にまで大きな影響を与えたといわれ、中世という時代を考えると、まさに稀有としか言いようのない女性です。

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「私が話している言葉は、ひとりの人間から発せられた物ではありません。私に遣わされた幻影で見聞きした物なのです。」とは彼女の言葉ですが、彼女自身はこうした作品がすべて外から(天から)与えられた物と考えていました。

彼女の作曲した「シンフォニア」は循環する宇宙のエネルギーと神秘に満ちています。
ヒルデガルドにとって、天体のハルモニアのこだまとして現実に鳴り響く音楽こそ天地創造を賛美する歌の中でも最高のものでした。
彼女によれば、人間の精神もまたシンフォニア(調和的響き合い)そのものであって、精神と肉体との内面的調和は、音楽によって呼び覚まされるものだったのです。

「宇宙」という概念がそのまま「天」であり、根源的な神のエネルギーに満ち溢れた物であった時代、ヒルデガルドの音楽は宇宙そのもの天体そのものを体験する音楽であったのではないでしょうか。
あたかも、回転しながら天の高みへと昇りつめていく光の柱、祈りの結晶のような音楽です。
この神秘的な浮遊感に満ちた音楽が、ヒルデガルドの時代には教会のミサのたび歌われ演奏されていたことを思うと眩暈のような感覚に襲われます。
ゴシック以前、ロマネスク様式の教会の丸天井をゆるゆると立ち昇っていく香気にも似た音楽です。

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演奏しているのは、SEQUENTIAセクエンツィア
もともと当時の北ヨーロッパで好まれたグレゴリア聖歌の新しいスタイルの曲のことです。
この曲に因んだ名前を持つこのグループは、中世音楽の演奏家たちの国際的なメンバーで結成され多彩な活動で注目を集めています。

 

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この記事へのコメント

うさみ
2007年06月12日 20:14
音楽にはあまり詳しくないのですが、aostaさんのご説明を読んでとっても聴いてみたくなりました。グレゴリオ聖歌はなぜか眠気を誘われる癒しがあって好きなので。多分同じだと思われるCDをネットで見つけたので買うつもりです。同じ演奏者の「ヴォイス・オブ・ザ・ブラッド」というのも良さそうですね。
2007年06月13日 00:48
◇うさみさん、こんばんは。

関心を持っていただいてとても嬉しいです。
グレゴリア聖歌がお好きでしたら、気に入っていただけるかもしれません。
それにしても、即ネットで探してくださるとは!
うさみさん、行動力が素晴らしい!

「ヴォイス・オブ・ザ・ブラッド」、私も持っています。
ほかに、同じシリーズで「エクスタシーの歌」というCDも出ています。
こちらもなかなかいいですよ。
ブログ本文では、いろいろ書きましたが、下手な先入観を持たずに直感で聴くのが一番かもしれません!
Stanesby
2007年06月13日 23:41
Noraさんが書かれる前に書いちゃおっと。(笑)

このCDを聴かせてもらいましたが、第一印象を述べます。

・え、これが十字軍の時代(12世紀)の音楽なの?
・グレゴリアンに似てるけど、もっと旋律が鮮やか!
・女性が作曲したんだ。この時代はまだ大らかだったのかな。
 のちの、メンデルスゾーンのお姉さんとか、クララ・シューマン
 とかになると、女性は作曲などとんでもないという時代になり
 ますよね。
・セクエンツィアの演奏、編曲が、極めてシンプルでいい。下手に
 和音なんて足されると、全く違う音楽になっちゃうからなぁ。

こんなんでした。
お気に入りの音楽です。
 
2007年06月14日 15:33
 こんにちは。
 何か書こうと思ったのですが、aostaさんの記事があいかわらずわかりやすくて、ヒルデガルトそのものについては、何も書くことが見つかりません。
 Stanesbyさんのコメントには、多少、突っ込みどころがあるのですが、とりあえずぐっとこらえることにします。(笑)

 ヒルデガルトと言えば、セクエンツィアですね。
 音楽の世界には、例えば、グールド+ゴールドベルク、イ・ムジチ+四季(古っ!)みたいな、幸運の組み合わせ、宿命の組み合わせが存在しますが、そのうちの一つではないでしょうか。
2007年06月14日 15:37
(つづき)
 セクエンツィアは、アンサンブル・オルガヌム、アンサンブル・ジル・バンショワと並ぶ、中世グループの最高峰ですが、前2者がいろいろな意味で相当ヘビーなのに対し、セクエンツィアは、なじみにくい中世音楽をとても聴きやすく紹介してくれます。

 ビンゲンシリーズ以外も、どれも名盤ばかりですが、
 実は、以前、ご紹介した、アンサンブル・ジル・バンショワのシャンソン集と並ぶような「幻の名盤」があるので、今度記事に書きたいと思います。
(この頃、こんなお約束ばかりがたまってしまってごめんなさい)
2007年06月15日 19:18
◇Stanesby、おはようございます。

>女性が作曲したんだ。

女性の作曲者としては、ヒルデガルドが古代ローマ時代以来という説明がWikipediaにありましたのでURLでご覧ください。
私たちが世界史で勉強したヨーロッパ中世は教会と封建君主の力が絶大な"暗黒の中世"というイメージがあったのですが、事実は異なるようです。
この時代は決して暗黒に閉ざされ停滞した時代ではなく、教会(修道院)の文化は成熟し、一般庶民もむしろ自由な生活を謳歌していたというのが本当のようです。
「幻視者」としてのヒルデガルドの記した物は教会(教皇)のお墨付きを得て高く評価されていました。

メンデルスゾーンのお姉さんやクララ・シューマン、この時代に生まれていたら音楽の歴史にその名を残す存在となったでしょうに!
2007年06月15日 19:24
◇Stanesbyさん、続きです。

まずはお詫びです。
↑コメントへのお返事が呼び捨てになっていました!すみません!

この曲を抑制と情熱の素晴らしいバランスで演奏しているセクエンツィア、本当に素晴らしいです。
いつ終わるともなく循環するかのような音楽は、宇宙のエネルギーそのもの、ヒルデガルドにとっては、光と闇を創造した神の霊そのものであったのではないでしょうか。
 
『初めに、神は天地を創造された。地は混沌であって、闇が深淵の面(おもて)にあり、神の霊が水の面を動いていた。神は言われた。
「光あれ。」こうして光があった。』
という、創世記最初の言葉が重なります。
2007年06月15日 19:26
◇Noraさん、こんにちは。

ヒルデガルドをはじめて聞いたのはかれこれ10年ほど前。
カルメル会に詳しい友人から借りた一枚のCDでした。
でも、それはセクエンツァの演奏ではなかったかも知れません。
かなり現代風にアレンジされた演奏でロック・グループか何かとのコラボレーションだったような記憶が・・・
そのときの印象は800年という時間の流れを超えて、異なる時代の音楽が何の違和感もなくひとつの物になっているという驚きでした。
まったく古さを感じさせない、むしろ斬新といってもいいような演奏。
拍動にも似たパーカッションのリズムが今も心に残っています。
まだ小学生だった子供たちが怖がるので、早々にお返ししてしまい、後でタイトルや演奏者を書きとめておかなかったことを後悔したCDでした。

子供たちが恐れたもの・・・それは心と体を揺さぶるような不思議な生命のエネルギーではなかったかしら。
原初的といってもいい、何かが始まるときの胎動のような音楽でした
2007年06月15日 19:28
◇Noraさん

その後どうしても"あの音楽”が聴きたくてヒルデガルド・フォン・ビンゲンという名前だけをたよりに、CDをさがしました。
地方の悲しさ。店頭で見つけることはできず東京に良く出かける音楽好きの友人に頼んでやっと手に入れたのが"ordo virtutum"。
その後運良くお店で何枚かのヒルデガルドにめぐり合うことができました。その4枚みんなセクエンツィァ。

Noraさんのお言葉にありました、
>幸運の組み合わせ、宿命の組み合わせが存在しますが、そのうちの一つではないでしょうか。

セクエンツィア以外ヒルデガルドの音楽を聞いていないも同然の私が言うのも変ですが本当にその通りではないかと・・・

>実は、以前、ご紹介した、アンサンブル・ジル・バンショワのシャンソン集と並ぶような「幻の名盤」があるので、今度記事に書きたいと思います。

期待しています!
Noraさんのお約束、いつも楽しみです。いつでもいいですから書けるときにお願いしますね。
2007年06月15日 22:46
こんにちは。はじめまして。
ヒルデガルド・フォン・ビンゲンのアルバム、
何枚か持っていますが、
このセクエンツァの「シンフォニア」は
やはり格別ですね。
大好きなアルバムです。
2007年06月16日 00:00
 aostaさん、またまた、こんばんは。

> 女性の作曲者としては、ヒルデガルドが古代ローマ時代以来

 URLが消えていたので確認しませんでしたが、 
 9世紀にカッシアという作曲家がいて、何と楽譜が残っています。
 確かCDもあるはず。わたしは聴いたこと無いですが。

 この時期に、作曲家が特定できる楽譜があるということ自体、異例のことなので、おそらくたいへんな存在だったのでは。
 そして、これが事実だとすると、当然他にも多数いたものと推定されるわけで、aostaさんがおっしゃるとおり、意外と自由な感じで、少なくともガチガチの男社会、というわけではなかったようですね。
(女性崇拝、というか、巫女的な存在だったのでしょうか?)

> かなり現代風にアレンジされた演奏で

 リチャード・サウザーの「ヴィジョン」というアルバムが有名ですが、もしかしたら、それかもしれませんね。
 今はまだあるのかな。
2007年06月16日 00:36
◇木曽のあばら屋さん
  ようこそおいでくださいました。

コメントありがとうございます。
ヒルデガルド、その音楽も人となりも特異な人だったのでしょうね。
彼女を初めこの時代の人々が考えていた宇宙のイメージは現在の私たちの物とはずいぶん違ったのでしょうが、音楽には広大無辺、神秘に満ちた手付かずの宇宙の美しさがありように思います。

今夜は美しく晴れましたね。
南の空に早くもさそりがその姿を現しました。
「天体のシンフォニア」に共振する精神的、身体的シンフォニアを感じるひと時です。

そちらのブログにお邪魔してまいりましたが、奥が深すぎて迷子になってしまいそう!
ゆっくり、じっくり拝見させていただきますね。
2007年06月16日 00:53
◇Noraさん、こんばんは。

そうです!「ヴィジョン」という名前でした。
実はヒルデガルドの「ヴィジョン」とだけ覚えていて、何度も探したのですが見つからなかったため、私の記憶違いかとあきらめていたのです。
「ヴィジョン」でよかったのですね。

でもあれだけ探してなかった、ということはもう手に入らないのでしうか。それにしてもNoraさん、よくご存知です!
私が探しあぐねていたり、記憶がはっきりしない物でもたちどころに「これではありませんか、こんなのがありましたが」と教えてくださいます。
本当にびっくり!

ところでStanesbyへのお返事に添付したURL確かに消えていますね。
wekipediaのURLだったんですが、どうして消えちゃったのかしら。
もう一度貼り付けます。
2007年06月17日 02:05
◇木曽のあばら屋さん、こんばんは。

Noraさんといい、木曽のあばらやさんといい、本当に感謝です。
それにしても、初めてコメントを下さったにも関わらず、私の記憶の中で大切にしまってあったCDをお持ちだなんて、嬉しい偶然です!

これからも、どうぞよろしくお願いいたします。

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  • ”VISION " ヒルデガルトの世界

    Excerpt: ヒルデガルト・フォン・ビンゲン(1098~1178)。 彼女については過去ブログにも一度書いたことがあります。 Weblog: 消えがてのうた part 2 racked: 2011-02-10 09:22